不動産投資を始めた人が知っておくべき確定申告の計算と注意点を解説

不動産投資を始めた人が知っておくべき確定申告の計算と注意点を解説不動産投資

不動産投資を始めた方にとって、最初の確定申告はハードルが高いものです。しかし、計算の仕組みを知っておけば、スムーズに手続きできるだけでなく、節税につながる場合もあります。今回は、所得計算を中心に不動産投資の確定申告についてお伝えします。

確定申告が必要な不動産投資家とは

確定申告は誰もが行わなくてはいけないものではありません。年末調整で完結する給与所得者、年金収入が一定額以下の人は確定申告しなくてよいのです。

ただし、不動産投資家は原則、全員確定申告が必要と思って差し支えありません。より正確に言うとすれば、以下のケースに該当する方は確定申告を行う必要があります。

●ケース1:不動産投資のみで生計を立てている

不動産投資から得られる所得は「不動産所得」と言います。不動産所得のみで生計を立てているなら確定申告しなくてはなりません。

●ケース2:不動産投資している会社員や年金生活者で、給与所得以外の所得合計が20万円超

会社員として給与所得をもらいつつ、不動産投資をしている人の多くも確定申告が必要です。ただし条件が付きます。不動産投資をしている給与所得者で確定申告をしなくてはならないのは、「給与所得以外の所得合計が20万円を超える人」です。

もし給与所得以外の収入が不動産投資によるものだけなら、不動産所得が20万円超かどうかで確定申告が必要かどうかを判断します。ただし、不動産投資以外にも副業収入があるのなら、その所得も合計した上で20万円超かどうかを判断しなくてはなりません。

また、年金が生活の軸となっている人は公的年金の収入額が400万円以下なら確定申告不要とされています。しかし、それでも不動産投資で確定申告が必要になるときがあります。公的年金以外の所得合計が20万円を超えるときです。

なお、年金受給者の方は公的年金以外の所得が20万円以下なら所得税の確定申告は不要ですが、住民税の確定申告は必要になります。所得税は所得税法、住民税は地方税法と別々の法律に基づいています。「20万円以下」ルールは所得税法だけのものであり、住民税には適用されないのです。

●ケース3:自社から賃貸料を受け取っている同族会社役員

投資しているマンション物件が同族会社の事業用で、かつオーナー自身がその同族会社の役員であるケースでも確定申告が必要です。こちらは、先述の「20万円超かどうか」では判断しません。同族会社からの賃料が年間10万円でも確定申告が必要になります。

不動産投資をしている人が確定申告するメリット

確定申告を行うのは手間かもしれませんが、不動産投資をする人にとって確定申告は2つのメリットがあります。

●確定申告のメリット1:不動産所得が赤字なら損益通算で節税できる

青色申告でも白色申告でも、不動産所得が赤字なら給与所得や雑所得などの他の所得と相殺して全体の所得額を抑えられます。これを「損益通算」と言い、所得額を抑えることで納税額が下がるのです。源泉徴収や予定納税の対象となった所得税があると、還付されたりします。

株式やFX、暗号資産で投資をしても、他の所得との損益通算はできません。その点を考えても不動産投資の方が節税効果が高いと言えます。

●確定申告のメリット2:いざというときの給付金・助成金を受けやすい

コロナ禍で一部の不動産オーナーは資金繰りが悪化しました。なかには地方自治体の助成金や固定資産税の減免制度で危機を乗り切った人もいます。

こういった国や自治体の支援制度などは、確定申告をしていないと受けられない場合があります。毎年きちんと確定申告していれば、不測の事態に備えられるのです。

確定申告の計算の基本、収入と所得の違い

確定申告の対象者・メリットを押さえたところで、ここからは計算方法について解説していきたいと思います。

確定申告の計算方法を理解するためには、まず“所得”と“収入”の違いを理解することが重要です。税法では、所得と収入はそれぞれ次のような意味になります。

●税法における「収入」とは

「売上」「給料の額面金額」など、「入ってきたお金そのもの」が収入です。不動産投資ならば、後述する「総収入金額」が不動産所得計算上の収入になります。

●税法における「所得」とは

所得は、所得区分に応じた計算式で求められる金額です。所得区分には給与所得をはじめ、不動産所得、退職所得、配当所得など10種類があります。

たとえば、給与所得なら「給与年収-給与所得控除」、不動産所得なら「総収入金額-必要経費」という計算で求められます。もし不動産所得を青色申告(後述)するなら、ここからさらに青色申告特別控除額を引いた金額が所得額になります。「所得≒利益」として考えると分かりやすいかもしれません。

不動産所得はどう計算する?

確定申告の対象となる不動産所得は、毎年1月1日から12月31日までの1年間が対象です。不動産所得は、先述のとおり「総収入金額-必要経費」で計算します。「総収入金額=売上」「必要経費=経費」と考えるとよいでしょう。

具体的には、次のようなものが該当します。

●「総収入金額」に含まれるもの

賃貸料収入のほか、次のようなものを計上します。

  • 更新料
  • 名義書換料
  • 承諾料
  • 礼金
  • 「共益費」「管理費」で受け取る水道光熱費や清掃代
  • 敷金・保証金のうち、返還不要となった部分

●「必要経費」に含まれるもの

必要経費は売上を得るために管理会社に支払う管理手数料や自治会費などのほか、次のようなものを計上します。

  • 租税公課(固定資産税、不動産取得税、印紙税など)
  • 損害保険料
  • 減価償却費
  • 管理費
  • 修繕費
  • 借入金利息
  • 税理士などの専門家報酬
  • 立退料
  • 入居者募集の広告宣伝費

この他、電話代といった通信費、さらに書籍購入費やセミナー参加費なども必要経費に計上できますが、いずれの場合も不動産投資に直接必要な金額に限られます。プライベートの支出と区分しなくてはなりません。

不動産所得における経費計上の注意点

不動産所得を計算する上で、経費の扱いは間違えやすいものです。特に、以下の経費を計算する際は注意が必要でしょう。

●間違えやすい経費1:借入金の元金・利息

ローンを組んで不動産投資を始める人もいるでしょう。「借金返済は経費」と思われがちですが、実は違います。元金は経費になりません。利息だけが経費です。

借入金は負債です。返済は借りたものを返しているに過ぎません。一方、利息は不動産投資に必要であり、オーナーが手持ち資金から支払うものなので必要経費とみなせます。ただし、不動産所得が赤字だと、土地部分の借入に関して生じた利息は必要経費に算入できません。

●間違えやすい経費2:同一生計の家族への給与支払い

生計をともにしている家族が不動産投資を手伝ってくれたら、給料を支払うこともあるでしょう。しかし原則、家族への支払は経費にできません。

ただし、後述の青色申告者なら事前に「青色申告専従者給与」として届け出た金額が、白色申告者であれば「事業専従者控除」として一定額が必要経費になります。なお、いずれも申告者の営む事業、つまり不動産投資に専従している家族であることが条件です。

●間違えやすい経費3:満期返戻金のある損害保険の保険料

払込保険料の一部か全部が、満期返戻金として加入者にいずれ戻るなら、保険料のうち返戻金の「積立部分」は経費計上できません。長期契約の保険は要注意です。返戻金部分を除いた金額を加入期間に応じて按分し、必要経費に計上します。

●間違えやすい経費4:修繕費と資本的支出

不動産投資にはメンテナンスコストがかかります。このメンテナンスの支出は必ず必要経費になるとは限りません。原則、「原状回復程度のものは修繕費」「原状回復以上、つまり用途変更や資産価値の向上につながるものは資本的支出」となります。実際には、区別する基準が細かく決められています。

資本的支出に該当したら、いったん資産として計上し、その後少しずつ減価償却を通じて経費計上していきます。

●間違えやすい経費5:減価償却費

減価償却は土地以外の資産に関する経費化の考え方です。資産の使用や時間の経過に伴い、劣化した部分を数値化して必要経費に算入します。土地は使用したり時間の経過によって価値が減ることがないとされており、減価償却の対象とはなりません。

建物と建物付属設備、構築物は定額法で減価償却しなくてはなりません。それ以外の資産は定額法・定率法いずれでも減価償却できます。なお、定額法は「毎年同じ額だけ費用化する償却方法」、定率法は「費用化できる額が最初多いけれど、だんだん少なくなる償却方法」です。計算方法は法律で決まっています。

青色申告を行うと税制優遇が受けられる

確定申告は「白色申告」と、特定の条件を満たす人が届出を行うことによって適用される「青色申告」があります。不動産投資をして不動産所得を得ている人は青色申告の適用を受けられます。青色申告には次のメリットがあります。

  • 青色申告特別控除(65万円・55万円・10万円のいずれかを計上できる)
  • 赤字の繰り越し(損失を翌年以後3年間繰り越せる)
  • 少額減価償却資産の特例(30万円未満の資産を一度に経費計上できる)
  • 専従者給与控除(家族を青色専従者として申告すれば支払給料を経費にできる)

この適用を受けるには、会計ソフトで記帳するなどの準備が必要になります。さらに、期限までに「青色申告承認申請書」を税務署に提出しなくてはなりません。元日から1月15日までに開業した人はその年の3月15日まで、1月16日以降に開業した人は開業日の2ヵ月以内が申請期限です。

また「青色申告特別控除」は、申告者によって控除額が異なる点にも注意が必要です。65万円・55万円の青色申告特別控除を受けるためには、5室10棟以上の規模で不動産投資を行っており、かつ複式簿記で記帳している必要があります。

手間はかかりますが、白色申告者にはない税制優遇を受けられるため、検討してみてもよいでしょう。

申告期限は1ヵ月延長したものの早めの準備がおすすめ

今回は、不動産投資を始めた方向けに確定申告の所得計算や注意点についてお伝えしました。

2020年分の申告期限は1ヵ月延び、2021年4月15日となりました。しかし計算には手間がかかるものです。先延ばしにせず、コツコツ処理していきましょう。

著者・監修者プロフィール

鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子
税理士・税務ライター|1976年生まれ。
中央大学法学部法律学科卒業後、(株)ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」「KaikeiZine」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。業界専門紙「納税通信」にも寄稿。母子家庭育ち。母の浪費癖を引き継いで一時困窮するも、コツコツ貯金をして税理士試験の受験資金を作る。その後も貯金・投資で資産を形成。三姉妹の母。著書に「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」がある。