数千万円クラス、さらには億単位の資産を保有している方にとって、将来予想される相続は避けて通れない問題です。2015年の相続税改正では基礎控除が下記のように改正されました。
改正前:5,000万円+(1,000万円×法定相続人数)
改正後:3,000万円+(600万円×法定相続人数)
この改正が意味するのは、相続税の課税対象の拡大です。例えば、法定相続人が「妻1人と子ども2人」という家族で相続が発生した場合、改正前では基礎控除が8,000万円になります。そのため、相続財産が8,000万円を超えない場合は相続税との関わりがありませんでした。しかし、改正後は同じ家族構成での基礎控除額は4,800万円です。
実に半分近くにまで基礎控除額が縮小しているため、これまで相続税と無縁だった方であっても相続税の申告義務が発生する可能性があるのです。来たるべき相続に備えて、今のうちから何か有効な対策を講じておきたいという方は多いことでしょう。そこで、今回は賃貸経営を活用した相続対策を3つの項目に整理して解説します。
理由① 不動産で所有すると資産評価額が低くなる
相続財産は、流動性や転用性によって評価が異なります。流動性や転用性が最も高い資産は、あらゆる資産の購入に直接使うことができる現金です。それに対して不動産は現金より流動性が低くなるため、その分評価が低くなります。土地は時価の約8割で評価されますし、建物(税務上は家屋)は固定資産税評価額が適用され、おおむね建築費用と比して5~7割程度の評価です。
これだけでも不動産は、現金で相続をするよりも相続財産としての評価を低くすることができるため、その分相続税額も少なくなります。
理由② 賃貸住宅にするとさらに評価減
さらに、所有している不動産が賃貸物件だと評価額はさらに低くなります。賃貸にすることにより入居者にも権利が発生し、所有者の意向だけで自由に処分することができなくなります。そのため、所有者にとっての権利が制限される分だけ評価減になるという仕組みです。賃貸住宅で評価減になるのは、借地権割合と借家権割合になります。
文字通り借地権割合とは、所有している土地を誰かに貸すことで発生する権利の割合、そして借家権割合は建物を貸すことで発生する権利の割合です。借地権割合はそれぞれの土地によって異なり、国税局が設定した割合が適用されますが、おおむね住宅地で5~7割、都市部の商業地だと8~9割というのが目安になります。そして、借家権割合は一律で3割です。
相続財産が不動産というだけで評価減ができるのに加えて、それを賃貸住宅にすることでこれだけ評価を減らすことができます。これも大まかな目安ですが、現金で相続するのと比べて賃貸住宅は評価がほぼ半分です。
理由③ 借入金も控除できる
賃貸経営によって可能になる相続対策の3つ目は、借入金の控除です。多くの不動産投資家は、賃貸経営のために金融機関の融資を利用していますが、この際の借入金は残高をそのまま相続財産から控除することができます。不動産投資は借入金という他人資本を活用しながら賃料収入が得られるため、この投資効率の高さがメリットの一つです(レバレッジ効果といいます)。さらに、その他人資本である借入金を相続財産から控除できるという点もメリットになります。
累進性の高い相続税だからこそ評価を減ずるのが有効な対策
相続税には、累進性といって課税対象額が大きくなるほど税率が高くなるという特性があります。例えば、基礎控除後の相続財産が「1億円以下」だと相続税率が30%ですが、その1つ下のカテゴリーである「5,000万円以下」だと20%です。相続財産が1億円前後だとすると、1億円を超えるかどうかで税率に10%もの差が生じます。
このように税率が変動するボーダーラインにある場合はもちろんのこと、そうでなくても課税対象額の評価をいかに低く抑えるかが相続対策の基本なので、不動産や賃貸住宅を活用した節税スキームが広く活用されているのです。
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