サラリーマンでも計上可能な経費とは?特定支出控除の現実と真の節税対策

サラリーマンでも計上可能な経費とは?特定支出控除の現実と真の節税対策税金

サラリーマンであっても、「必要経費を計上して節税することができれば助かる」と考える人は少なくないでしょう。今回はサラリーマンに経費の計上は可能なのかどうかを解説します。

サラリーマンの経費を語るうえで欠かせない「特定支出控除」の現状についてもわかりやすい言葉で解説しますので、ぜひ参考にしてください。

サラリーマンの経費控除額はあらかじめ算定されている!

サラリーマンにも経費はあります。というよりも、通勤・交際費に加え、スーツ・靴・ネクタイといった衣服代など、サラリーマンの生活には多くの費用が必要です。日頃仕事のために使う費用を経費として計上して節税したいと思う方がいるのも当然といえます。

しかし、サラリーマンの経費は「だいたいこのくらいかかるだろう」という基準を根拠に、給与収入の額に応じてあらかじめ算定されているのです。ここでは、サラリーマンの経費と控除について解説します。

サラリーマンはスーツも車も交際費も経費とみなされる??

サラリーマンの経費としてまず思いつくのがスーツ・ワイシャツ・靴下などの衣類です。通勤靴やネクタイなどのファッション小物も、サラリーマンにとってはある意味消耗品でたくさんの数が必要となります。

また、取引先との接待費や業務上必要で購入した書籍、資格を取るための費用なども経費と考えられます。

ただし、これらの経費を計上し、確定申告して税金の還付を期待することはほぼできません。その理由は「給与所得控除」という仕組みにあります。次に詳しくご説明します。

給与所得控除とはサラリーマンの経費に対する概算控除

サラリーマンの給与は税金や保険料などを天引きされ、収入の8割程度の手取り収入となって振り込まれます。そして、この手取り収入から上記のようなさまざまな経費を支出することになりますが、この経費に相当する金額をあらかじめ概算で設定したものが給与所得控除なのです。

サラリーマンの場合、このあらかじめ設定された給与所得控除額を経費とみなして控除されるため、実際に経費を計上することは原則としてできません。

例えば、年収600万円のサラリーマンの給与所得控除額を調べてみましょう。この場合は、「給与収入 × 20% + 44万円」の計算式が適用されるので、年間164万円が収入から控除額として引かれています。

このケースでは、「600万円―164万円=436万円」が給与所得となります。この436万円に対して課税されることになります。つまり、ここでさらに経費を計上して課税対象額を減らすことができれば、節税につなげることが可能というわけです。

また、控除額の計算式は年収の範囲ごとに定められており、かんたんに計算することができます。なお、控除率は収入の多さに比例して低くなるのが特徴です。

特定支出控除とは給与所得控除額を上回った経費に対する控除

給与所得控除を受けていても、その控除額の2分の1を上回る金額を経費として使ったサラリーマンは、「特定支出控除」の適用を受けることが可能です。

もし給与所得控除額として設定された金額よりも多くの経費を使ったとすれば、さらに控除を受けたいと考えるのは当然といえます。特定支出控除の対象となる経費は以下のとおりです。

・通勤費(一定の車両修理費なども含む)
・勤務必要経費(制服等の衣服費・交際費・図書費等で一定のものを含む)
・帰宅旅費(単身赴任のサラリーマンに多い経費)
・資格取得費
・研修費
・転居費(転勤で必要となる場合が多い)
・職務上の旅費(出張が多いサラリーマンに必要な経費)

先ほどの例でいうと、164万円の控除を受けている年収600万円のサラリーマンは、164万円の半額に当たる82万円以上を別途経費として使用した場合には、その超える部分についてさらに控除を受けることができ、「課税対象額が減る→節税できる」ということになります。

ただし、この場合に会社から支給される非課税の手当がある場合はその部分については控除を受けることができません。この点が、特定支出控除を受けるハードルの高さの一因です。これについては、次の章「特定支出控除が現実的ではないとされるもっともな理由」でも説明します。

特定支出控除には確定申告が不可欠!手続きに必要なものは?

特定支出控除の適用を受けるには、特定支出を証明する明細書などを添付して確定申告を行うことが必要不可欠です。

さらに、特定支出控除の手続きには、会社側も証明書発行などの手間が発生します。勤務必要経費・研修費・資格取得費など、項目ごとに1通ずつ会社からの証明書が必要なのです。

以下に、特定支出控除を申請する際に必要な書類を挙げておきます。
・給与所得の特定支出に関する明細書(様式は国税庁のHPからダウンロード)
・特定支出に関する証明書(会社側が発行。項目ごとに様式があり、国税庁のHPからダウンロード)
・特定支出の内容がわかる領収書(e-Taxで手続きする際は不要)
・源泉徴収票(申告書記入の際に必要)

必要書類の数自体はそれほど多くないにせよ、慣れない確定申告や会社に証明書を発行してもらうといった煩わしい作業を伴う点が気になります。

特定支出控除が現実的ではないとされるもっともな理由

特定支出控除を受けると課税対象額を減らせるため、サラリーマンなりの節税の対策はできます。しかし、特定支出控除を適用されたサラリーマンは、全国で実に1704人しかいなかったといいます(平成30年時点)。これはサラリーマン全体の0.1%にも満たない数です。そもそも、特定支出控除などという制度を知らないという人の方が多いのが現状といえるでしょう。

なぜここまで特定支出控除が適用されていないのか、その理由を解説します。

そもそも自腹で通勤していないサラリーマンがほとんど

特定支出控除として認められるには、会社が「非課税の手当」として支給していない経費のみを計上しなくてはなりません。多くの一般企業は社員の通勤費を別途支給しているため、非課税の手当以外の負担をしているケースは少ないはずです。

衣服費についても、対象となるのは制服費や事務服などの業務上必要となる衣服費のみで私服は控除に含まれず、また控除額に限度もあるので、給与所得控除額の半額に至るほど経費が出ることはあまりないでしょう。

しかも、控除を受けたいあまり無理に経費を使って申告をしたものの、必要性がないと判断されれば特定支出控除とは認められないので注意が必要です。

手続きが面倒でハードルが高い

先ほども解説しましたが、特定支出控除の申請には、会社も巻き込んだ準備が必要です。日頃から領収書や明細を管理し帳面をつけ、最終的に確定申告をしなければなりません。

さらには経費の項目ごとに会社から証明書を発行してもらい、提出する義務があります。ここまで大変な手続き・準備に手間と時間をかけるだけのメリットがあるかといえば、そうともいえないのです。

手続きが大変なわりに節税効果はさして期待できない

先ほどの章で年収600万円のサラリーマンは給与所得控除額が164万円と紹介しました。この場合には、会社から手当を受けていない経費の合計が164万円の半分を超えてかかった場合に限って、特定支出控除を受けられる可能性が出てくることになります。

164万円の給与所得控除を受けている人なら、82万円以上の合理的な経費を計上しなくてなりません。仮にこのサラリーマンが年間総額100万円の認められる経費を自腹で使い、確定申告したとします。節税がどれだけできるのか、計算してみましょう。

節税額の計算式は以下のとおりです。
「特定支出控除額=実際の支出額-給与所得控除額×1/2×所得税率」

この計算式に、例に挙げた人に該当する数値をあてはめます。

特定支出額100万円-164万円×1/2×所得税率
=100-82×所得税率
=18×所得税率

つまり、給与の課税対象額が18万円分減るだけという計算になります。実際の節税額はこの金額に所得税率を乗じた金額ですので、大変な労力と特定支出控除を受けるための経費をかけても、大きな節税効果は期待できないというわけです。しかも使った経費が戻ってくることはないので、出費の方がはるかに多いという結果になりかねません。

サラリーマンが本気で節税するには?タイプ別おすすめ対策

ここまでの解説で、「特定支出控除は節税対策になりにくい」ということがおわかりいただけたのではないでしょうか。しかし特定支出控除以外にも、サラリーマンができる節税対策はあります。ここでは、サラリーマンにおすすめの節税対策を3つ紹介します。

タイプ① 返戻品と多少の控除でOKなら「ふるさと納税」

ふるさと納税は節税に活用できるものではありませんが、「ワンストップ特例」という制度を使えば、サラリーマンでもかんたんにふるさと納税を行うことが可能です。

ワンストップ特例制度は確定申告の代わりとなる制度で、確定申告が不要な給与所得者でも適用が受けられる画期的な取り組みとなっています。

ふるさと納税をした自治体へワンストップ特例の申請をすると、居住している自治体と連携して住民税控除の手続きがなされます。寄付額にもよりますが、自身の年収に応じた控除上限額以内であれば、実質負担2,000円で豪華な返戻品を受け取ることができるため、お得感もアップすることでしょう。

タイプ② 医療費を多く使う人なら「医療費控除」

サラリーマンの場合は会社で年末調整を行うため、原則的に確定申告は要りません。しかし、医療費控除などいくつかの控除については年末調整の対象ではないため、控除を受けるためには自ら確定申告をすることが必要です。

その年中に実際に負担した医療費の合計額から10万円を差し引いた額が控除対象となります。医療費負担の多い家庭には大きな節税対策となり得ます。

家族が全員歯医者に通っているなど多額の医療費を負担した場合や、親の介護施設料などをたくさん支払っているサラリーマンは確定申告を行うことで適用を受けることができ、一定の節税をすることができます。ただし、通常の人間ドックや健康診断などの費用は対象外なので注意が必要です。

タイプ③ がっつりお金を増やしたいなら副業して確定申告

前述のとおり、サラリーマンは給与所得を得ているため、さまざまな制約により節税は難しいといわざるを得ません。しかしサラリーマンの方の中には、節税をして出ていくお金を減らすというよりも、入ってくるお金を増やしたいと考えている人も多いのではないでしょうか?

お金を増やして節税もしたいなら、サラリーマンであっても休日や空いた時間などにアルバイトやパートなどの副業をしてきちんと確定申告をし、堂々とこれらの控除を受けるというのも一つの方法です。

タイプ④ 不動産投資を活用した節税

心身を酷使して副業をするのはつらいというサラリーマンの方には、投資で資産運用を始めるのも得策です。投資というと株やFXなどをイメージしがちですが、株やFXは手間や時間がかかってしまう上に、比較的リスクが高いため敬遠する方が多いのも事実です。

不動産投資なら手間なく「不労所得」が得られるほか、さまざまな経費が認められていることから計画的に節税の対策をすることもできます。また、団体信用生命保険に加入することで、投資家本人が亡くなった場合にローンが完済扱いとなって不動産が遺族の手元に残るので、生命保険金の代わりとしても活用することができます。

また、仮に不動産投資を始めた初期に赤字が出たとしても、給与所得とその赤字を相殺して課税される「損益通算」という制度があるため、トータルでの所得税・住民税の節税も可能です。

すぐに多くの儲けは期待できなくても、節税をしながら将来的に安定した家賃収入を得るための計画的な資産形成をしたい方には、私的年金の役割も担う不動産投資はたいへんおすすめです。

まとめ

サラリーマンはあらかじめ設定された概算経費に対して所得控除を受けていますが、特定の経費が多額にあり、なおかつ一定の要件を満たした人については特定支出控除という制度によってさらなる控除を受けることができます。

しかし、特定支出控除の適用を受けている人は現状きわめて少数で、現実的ではありません。サラリーマンがかんたんに節税をしたりお金を増やしたりしたい場合は、不動産投資を通じて不労所得が得られる仕組みを作ることで、将来にわたって計画的に節税と資産運用をすることができるのでたいへんおすすめです。


著者・監修者プロフィール

八城孝夫 (やしろたかお)
八城孝夫 (やしろたかお)
税理士 渡辺正武税理士事務所
認定経営革新等支援機関、一般社団法人融資コンサルタント協会 認定コンサルタント。青山学院大学大学院法学研究科修了。事業承継対策、遺言・民事信託を活用した相続対策をはじめとした相続対策の企画立案など、おもに法人・相続領域の税務・コンサルタント業務に約20年従事。その他資金調達ならびに創業融資支援を得意とする。