年金に不安を感じているなら覚えておきたい「マクロ経済スライド」

年金に不安を感じているなら覚えておきたい「マクロ経済スライド」資産運用

「将来、公的年金だけでは心配だ」「年金制度が崩壊するのではないか」など不安を感じているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。しかし現実は公的年金を持続可能なものにするための取り組みが国主導で進められています。そのうちの一つが「マクロ経済スライド」です。今回はマクロ経済スライドの基本的な仕組みやメリット・デメリットなどを分かりやすく解説します。

「マクロ経済スライド」とは年金の給付額を抑える仕組み

マクロ経済スライドとは「社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組み」です。本来であれば、公的年金の給付額は賃金や物価が上昇するとともに増えると考えるのが普通でしょう。なぜなら20万円の年金をもらっている場合に3%の賃金・物価上昇が起これば、20万円で買えるモノが少なくなる(20万円の価値が下がる)からです。

しかし実際には「マクロ経済スライド」を発動させて年金額の伸びを「賃金や物価が上昇するほどは増やさない(※)」ように抑制するのです。なぜそのような対策をする必要があるのでしょうか。

※厚生労働省「いっしょに検証!公的年金」より引用

マクロ経済スライドで年金の給付と負担のバランスを調整

マクロ経済スライドによって公的年金の給付額の伸びを抑制する理由は「年金の給付と負担の収支バランスの調整」のためです。マクロ経済スライド導入以前は、少子高齢化が急速に進み平均寿命が延びる中、年金制度を維持するためには「現役世代の年金保険料の負担を増やす」など、選択肢が限られていました。しかし保険料が重くなれば現役世代の生活が苦しくなってしまいます。

そこで2004年の税制改正でマクロ経済スライドが導入され、年金保険料などの収入と年金給付などの支出のバランスをゆるやかに調整するという選択肢が増えたのです。

マクロ経済スライドはどのように計算される?

マクロ経済スライドの仕組みをもう少し詳しく見ていきましょう。マクロ経済スライドが使われている間は、賃金・物価の改定率からスライド調整率が差し引かれて年金の給付水準を調整します。例えば物価上昇率が0.5%でスライド調整率が0.3%なら、実際の年金改定率は 0.2%に抑え込まれるといった具合です。

このマクロ経済スライドが繰り返し行われると、支給額がかなり抑制(実質上の目減り)されることになるでしょう。ちなみにスライド調整率は、下記の公式をもとに計算されます。

  • 公的年金の被保険者の変動率(2~4年度前の平均)×平均余命の伸び率

マクロ経済スライドのメリット・デメリット、注意点

マクロ経済スライドについての評価は「公的年金をもらう立場(高齢者)」と「公的年金を支える立場(現役世代)」で大きく変わってくるでしょう。マクロ経済スライドのメリットは、現役世代の負担をゆるやかに調整することです。これは現役世代から見るとありがたい制度といえます。一方デメリットとしては、受け取れる年金が目減りするため、年金をもらう立場からすればありがたくない制度といえます。
ただ現役世代の人でもいずれ年金をもらう立場になるという点には注意が必要です。マクロ経済スライドが使われた分だけ、年金が目減りしていくことだけは忘れないようにしましょう。

2019~2020年度の2年連続発動……今後も発動するのか?

マクロ経済スライドが導入された2004年以降、2020年までの間に発動したのは消費税引き上げのあった2015年、物価が上昇した2019年、そして2020年の3回です。なお2018年4月1日からは過去の物価上昇分を翌年以降に繰り越す「キャリーオーバー制度」も導入されています。では今後マクロ経済スライドはどれくらい発動する可能性があるのでしょうか。

厚生労働省は2019年8月に公表した財政検証で今後(少なくとも)26~27回程度の発動が必要との見解を示しています。

年金が目減りした分を資産運用によって埋める努力が大事

ここまでの解説でマクロ経済スライドはインフレ時に機能する仕組みであることが理解できたのではないでしょうか。逆にデフレ時は、賃金・物価の下落分だけ年金額が引き下げられ、それ以上の調整はありません。コロナ禍で不景気になると賃金・物価が停滞する可能性もあります。その間に限定すればマクロ経済スライドの発動回数は限定的かもしれません。

しかし長期的に見ると発動によって年金を目減りさせないと年金制度の収支バランスを保つのは難しいでしょう。公的年金の額自体は増えても大きく目減りしている可能性があります。現役世代はこのことを常に意識しながら目減りした分を埋めるために、長期で安定した資産形成をする自助努力が大切です。そのために資産運用の情報収集・勉強をしっかりと進めましょう。

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アセットONLINE編集部
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