歴史塗り替えた「高市トレード」、投資不動産どうなる?

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憲政史上初の女性宰相、高市早苗首相が誕生しました。国政トップという切り口では奈良時代の称徳天皇以来約1255年ぶりになりましょうか。同じ奈良つながりが偶然にしては出来過ぎのストーリーのようにみえます。日本経済新聞でも総裁・首相のW号外で対応、ニュース性の大きさをうかがわせました。

驚くことはそれだけではありません。私は入社以来37年間株式市場を取材してきましたが、10月6日は金融史に残る相場でした。この日、日経平均株価は4万6000円という節目を上回って最高値を更新すると、次の4万7000円の節目さえ一気に突き抜けました。なおも騰勢は弱まらずザラバ(取引時間中)で4万8150円まで上昇しました。終値は2175円(4.8%)高の4万7944円。

3度の台替わり(大台を3つ突破すること)を1日で達成するという前代未聞の爆発的な上昇を演出したのが「高市トレード」です。国内外からの尋常ではない期待の表われでしょう。高市政権の政策は資産形成や家計にも大きな影響を与えそうですが、このブログをご覧になっておられる方がいちばん気になるのは「『投資不動産』に影響出るの?」でしょうね。

メーンとなる高市政策は12~13種類。日本維新の会との連立で通称「サナエノミクス」も修正される場面もありそうですが、いったん主だった政策を雑駁ながらまとめてみました。

図表の赤フォントで示した点が、われわれ不動産オーナーの注視すべきポイントでずばり、金融政策と金利の行方です。長短金利がばらばらな点がやっかいで、この点はメディアには報じられていない難解な点なので敷衍しておきましょう。 いわゆる高市トレードは金融市場において「短期債買い・長期債売り」の形で表れました。時系列で利回りをグラフ化すると図のようになります。2年債は利回りが急低下、30年債や40年債などの超長期債は大きく上昇しました。これはコア戦略が「アベノミクス」を継承する「財政拡張・緩和的な金融政策」にあるからです。

積極財政を進めると財源を赤字国債に頼る可能性も高まります。この結果、期間の長い債券は需給悪化を見越して売りが出たのです。一方、高市氏は「金融政策の最終責任は政府にあり、きちんと(日銀とは)コミュニケーションをとる」と明言しました。忖度すれば「日銀が独立性を盾に、自分の意に反して勝手に動くような真似はさせない」と足枷をはめたのですね。

要するに利上げをたやすく容認しませんというメッセージです。そりゃそうでしょう。国債増発なら自らコストを上げる愚策などとりませんから。というわけで日銀金融政策の影響を受けやすい短期金利はぐんと下がったわけです。

本題。利回りのグラフ(「イールドカーブ」という)がこのよう立つ(鋭角化)と不動産投資にどのような影響が出るでしょうか。直接響くのがローン金利です。種類によりけりですが、変動型で短期金利に連動しやすい仕組みであれば一定期間、利上げ抑止により恩恵を受けるでしょう。逆に長期金利に連動するタイプであればかなり不利になります。期間によって好悪綱引きの形になるといえます。

ただ、私自身はややネガティブではないかとみています。金融緩和を維持した場合、円安が進むのは必至で、すでに政権発足前からドル高・円安に拍車がかかっています。円安はほぼすべての原材料・資材を輸入に依存する日本にとって最大のコスト・プッシュ・インフレの要因です。不動産においては維持・メンテナンスなど管理費の増加につながる可能性があります。

もう1つのポイントは大阪の副首都構想でしょう。中長期的に全国的な投資不動産の景色を変える可能性を秘めます。こちらの話題はまた別の機会に譲りましょう。


高市さんと私は同じ奈良出身なのですが、約40年前に私の弟が高市家に家庭教師として出入りしていた時代がありました。高市さんと同じ大学の先輩後輩つながりという縁もあったようです。

高市さん自身はすでに大学を卒業して「松下政経塾」に通っておられました。「早苗姉ちゃん」(当時の呼称)は「カワサキ400」と思しきバイクの爆音を轟かせて帰宅されるとか。休憩中はお茶も入れてくださるのですが、しおらしさはあまりなく?明るく豪快で今と変わらないキャラだったようです。1992年に初めて出馬されると聞いたときは私の両親含めて家族ぐるみ親戚ぐるみで応援しました。 実家には当時の奮闘を綴った高市さんからの直筆の手紙も残っていました。「まさかこのときの早苗ねえちゃんが一国の首相になるなんて」と感慨にふけりながら、両親の墓前報告に行かねばと思った次第です。

著者・監修者プロフィール

田中彰一 (たなかあきかず)
田中彰一 (たなかあきかず)
日本経済新聞社 コンテンツプロデューサ-兼アセットリード物件オーナー

●1989 年入社、証券部配属。東証や日銀、NY駐在など主に金融・資本市場担当。
BSテレビ東京「日経モーニングプラスFT」、日経CNBC「昼エクスプレス」コメンテーター
テレビ解説のほか日経電子版開発、コラム執筆など「話す」「創る」「書く」の三刀流をこなす。
CFP®、1種証券外務員、シニアプライベートバンカー、宅地建物取引士。
●奈良出身。趣味は世界遺産巡り(現在43カ国・地域歴訪)、大型バイク、ドローン、ゲーム、競馬
●最新刊「50 代から輝く!『幸福寿命』を延ばすマネーの新常識」(日経出版社)など著書多数。